背景と目的
大学院修士論文として取り組んだ研究である。
我が国では 4m 未満の道を狭隘道路と呼称し、密集市街地が都市計画上危険である原因とみなしてきた。そして、密集市街地の防災性向上には、道路の拡幅が唯一絶対の方策となっていた。しかしながら道路に面する箇所の部分的な撤去は非現実的で、全面的な改築が必要になることから建物の更新が停滞する大きな要因ともなっており、特に更新圧力の低い地方の集落では古びた空き家が放置される状況が多数発生している。
果たして道路=4m以上という考え方が正しいのだろうか、という疑問をきっかけに本研究はスタートした。歴史を紐解くと1919年に市街地建築物法によって幅員9尺(努力目標)という規定が明文化されるまでは、道路幅員という考え方自体が普及していなかった。その後の改訂で建物の接道条件が加わり、幅員が4mに拡張され、1950年の建築基準法制定につながっている。戦後の建設モチベーションが高い時のルールとしては有効だったと思われるが、前述の通り戦後80年の現在においては障壁となってしまっているのが実態である。また、狭隘道路を江戸時代の町割や地形といった地域固有の暮らし方と結びついた公共空間と捉えた場合、画一的な整備によって失われてしまう風景や営みがあるのではないかと考えている。
そんな中、2004年の国土交通省通達により、周辺の敷地・建物構造・設備の指定を組合わせることで幅員2.7m〜4mの道路に対しても幅員4m同等の防災性能をもつという考え方が提示された。これがもともと記載のあった建築基準法42条3項(通称3項道路)の新たな運用方法である。
本研究では、狭隘道路を維持しながらも密集市街地を更新していくことのできる仕組みとして42 条 3 項に着目し、道路拡幅に頼らない防災性向上の方法論を検討するものである。
研究フロー

初めにアンケート調査にて3項道路の指定実態を把握するために特定行政庁へアンケート調査を実施、調査結果を基に指定数の多い市町村での実地調査、指定道路と周辺環境の類型化を行った。そこで得た知見をふまえ、建て詰まりを起こしていると考えられる集落のケーススタディとして、和歌山県加太を対象とした防災性向上のためのシミュレーション検討、防災拠点の提案を行った。
なお、実態調査のためのアンケート調査を東海大学加藤仁美研究室と、ケーススタディとしての防災シミュレーションについては東京大学加藤孝明研究室の協力を得て行った。
